
(本インタビュー記事はPROST!2024年版を再編集したもので、記載されている情報はインタビュー時点のものです)
◆まずは、簡単にドイツフェスについて紹介していただきたいです。
佐々木 (S): このフェスの主な開催目的は「日本におけるドイツ」について皆さんに知っていただくことです。私たちの日常に「ドイツ発祥のもの」が溶け込んでいたり、昔から日独の交流があったりと身近にドイツがあるにもかかわらず、最近では日本でのドイツの存在感が薄れてきています。
青山 (A): 特にEUになってからさらにイメージがつかなくなっているのではないですかね。
S:もちろん、オクトーバーフェスト(10月祭)などで「食」をメインに日本でも親しまれている側面がありますが、もっとドイツ全般の文化を一ヶ所に集約したフェスティバルが今の日本に必要ではないでしょうか。獨協のドイツフェスでは、そういったドイツの魅力を再認識することができると考えています。そのために五感で楽しむコーナーや多岐にわたるドイツに関する専門分野の先生方、ゲスト講師などをお招きした講演会も開催する予定です。
◆主にどのような方に獨協のドイツフェスに参加してほしいですか?
A: 学生さんにぜひ参加してほしいと思います。1・2年生向けには留学関連のブースを設けています。また、上村先生と佐々木先生が尽力され、ドイツ企業との繋がりも模索中です。どういう企業が日本に進出しようとしているのか、そしてそこからインターシップが可能ではないだろうかといった「ドイツ語を学ぶ上で、それを仕事につなげる可能性があるかどうか」を1・2年生のうちから考える場になると考えています。
3・4年生にとっては、ゼミの展示を行うことで来場者に「自分たちが普段どのような勉強をしているのか」を発信する貴重な場になります。
また、学校でドイツ語を勉強している高校生たちも参加する予定なので、大学生と高校生の交流も期待できます。さらに、父母の方々についても自分たちが送り込んだ子どもが一体どのようなことを勉強しているのかについて知る機会になるでしょう。ドイツと接点がないご家庭も多くいらっしゃると思いますし、そのご家庭にドイツと日本の関係を知っていただくことができると思います。
◆学生の方にはドイツに関する有益な情報をたくさん得られる機会になるのではないでしょうか。
A: 獨協は人文系の大学であり、人文系の学問は「人間形成の根幹を成すもの」です。これだけの規模でドイツ語の教員がいる大学も他に類を見ないので、それぞれの教員がどのような関心事を持っているのか、どういったカリキュラムで大学、そしてドイツ語学科を運営しているのかを、在学生も父母もそれ以外の方も、さらに私たち自身も知るきっかけになるように構成していきたいです。
S: 獨協大学は今年で60周年を迎えます。そして、今回のテーマが「つなぐ」なのですが、いろいろな人をつなぐ、そこでドイツを軸にして「ドイツってこんなに面白い国なんだ!」と知っていただく機会になればいいなと考えています。
◆今回のイベントはドイツの文化的側面にスポットライトを当てるものなのですね。多種多様なジャンルのものを準備しているとのことでしたが、中でも一番お勧めしたいコーナーはどれでしょうか?
S: そうですね。「食」もイベントとして取り込む予定で、ドイツ・オーストリアレストランのシェフの方に交渉をし、来て頂こうと考えています。ですが、来場者にはただ単に「美味しいものを食べた」という経験で終わらせるのではなく、その背景にあるドイツ並びにオーストリア文化の積み重ねがあることを伝えたいです。クリスマスマーケットやオクトーバーフェストも勿論楽しいですが、多くの場合が一時的にビールを飲んだり、おやつを食べたりして終わってしまうのではないでしょうか。
A: 最近だとシュトレンが巷に出回っていますよね。
S: ですから、食事と「その背景にどういった物語があったのか」をセットで持って帰ってほしいです。
A: 物語=歴史ですから、どういった歴史でその食文化があるのかを知ってほしいです。
S: 単品の「この料理」というよりは、「つながっている」ドイツ・オーストリアを体験してほしいですね。「ドイツといえば、ソーセージとビール!」というイメージばかりがつきがちですが、そこにつながって様々な歴史があったり、地域によっても種類がガラリと変わったりという「広がり」に着目したいです。
A: 食事にはやはり、気候と風土が関連していますよね。ドイツでは、よほど北の方に行かない限り、海がないわけですから、内陸でかつ寒いため新鮮なものがなかなか手に入らないです。そのため、保存食がよく食べられています。食文化が日本とは異なります。そういったことを含めた入口としてのドイツフェスになればと思います。勿論、ドイツフェスが必ずしも「リアルなドイツ」というわけではありませんが、日本が窓口となって受け入れてきたドイツ的なものの集合体になることが期待されます。それも一つの日独交流における歴史になるのではないでしょうか。ここをきっかけに本当のドイツに興味を持ち、留学するなり旅行に行くなりしてもらえるような場所にしたいです。
今までの日独交流史では、日本がいかにドイツの先進的な側面を学ぶのかに主眼がありました。それこそ法律や医学などを日本はドイツから学んでいましたし、私の祖父も医者だったため、そういった意味でドイツについては身近に感じていました。しかし、日本が成熟していく中でそれまでの不均衡な関係から均衡が取れてきました。そして、現在は両国が同じような問題に直面しています。世界でも同じような問題に直面しているわけですが、より一層ドイツを身近に感じられる時代になったのではないかと思います。ドイツがどのように現代社会の問題に向き合うのか、EUの中心的な国の一つとして世界的にも重要な位置にあると思います。ここで、日本がパートナーシップをドイツそしてEUとどう構築していくのかも非常に重要になるため、そこまで考えてくれるきっかけになればと思っています。
S: 来場者にその奥深さや広さを感じてもらうのが一番の願いですね。そのために、語学のトークイベントだったり、小中学生向けのコーナーだったりと色々準備しています。あとはドイツ関連の作家さんにも来ていただけるかも知れません。このように横断的にドイツを知れますよ。
A: 獨協には歴史資料館といえる「獨協ギャラリー」(天野貞祐記念館1階)がありますが、そこでもイベントを企画しているそうなので、ドイツと日本の交流史の中で獨逸学協会がどういった役割を果たしてきたのか、獨協大学がどういう位置づけなのかを改めて知ってほしいですね。獨協大学が日独関係の中で重要な足跡を残してきたことをこの機会に伝えたいです。
◆お話を聞いて、「ドイツ語を学ぶことで見える世界だったり、日本とドイツのつながりだったりを学習者がもっと分かるようになれば、楽しくドイツ語を学べるのではないだろうか」と感じました。こういったフェスを通じて能動的に勉強に取り組めるのではないでしょうか。
A&S: それが、まさに我々の最大の目的です。
S: むしろ、呉さんが何かブースを出してみたりしませんか?(笑)
A: そうですね。一緒にやってみるのもいいですね。
◆先日、ドイツのヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』という映画を見て来ました。私はこれまで映画を見るときに無意識にメッセージ性が強いものを選ぶ傾向にありました。というのも、ぼんやりとした結末を見ている側に判断させる類の映画が苦手で、正解がわからないとモヤモヤした気持ちを引きずってしまうからです。ですので『PERFECT DAYS』を見たときには強い衝撃を受けました。セリフの少なさもそうですが、日本出身ではないにも関わらず、監督の日本についての着眼点が非常にリアルでした。変わらない日常の中にある些細な変化も映画終了後に長い間、余韻を持たせてくれる演出でした。そのため、鑑賞後の自分は今までにないくらいモヤモヤした感情を抱いたのですが、不思議とその感情に心を許している自分がいました。ここで言いたいのは、ドイツ語を学ぶ時に単純に「ドイツ語が話せるようになる」ではなく、逆に「外から見える日本」というのも外国語を学んでいく中で知ることができるのではないかということです。私の両親は中国人なので、家族間の会話は中国語ですが、それにより外の考え方と家庭内での考え方も変わってくる部分があることもこれに通じるのかなと思います。
A: かなり考え方が変わってくるのですか?
◆そうですね。ちょうどこの前が旧正月だったので、それこそ食事を通じてですが、日本とは違う文化に触れました。あとは小学校の頃から学校の先生と両親の考え方が違うことがあったため、その都度、自分で判断して進路などを選択しました。私の中で、外国語を学んだ先に何があるのかと考えた際に「俯瞰して物事を見られる力」を養えるという結論に至りました。今まではそれを肌感で探りながらやっていましたが、今回のドイツフェスはそのぼんやりとした感覚的な部分を可視化することができるのではないでしょうか。
S: その通りだと思います。外国語を学ぶ本髄は「俯瞰的に物事を見られるようになる」部分にあるのではないでしょうか。
◆個人的には、獨協大学は宣伝が他大学に比べると若干弱い気がしてしまいます。入った人にしか分からない良さがあってそれも個人的にすごく好きなのですが、もっと外部の人に伝えられるツールが欲しいなと考えてしまいます。どうしたらもっと獨協の魅力を伝えられるのでしょうか?
S: そういった部分は我々よりも学生が発信するとリアルではないですかね。最終的には教員が責任を持ってやりますが、上村学科長が作っている学生団体などを中心に発信していった方がより刺さると思います。
A: 我々は皆さんがどういうところで悩んでいるのか、何が欲しいのかが見えないんですよね。
S: 呉さんはどの辺りについて宣伝が弱いと感じましたか?
◆受験生になり自分から情報を収集し始めるまでは、「獨協」という大学を知らなかったです。獨協大学は知る人ぞ知るというイメージです。
S: 私自身もドイツ語学科の伊豆田先生と専門分野が近いので学会でお会いする中で獨協大学を知りましたね。「こんなにもドイツに詳しい大学だ」ということをぜひドイツフェスで伝えたいです。何か学生さんと一緒に企画できたらと思います。
A: ご協力いただければ嬉しいですね。まだ60周年ですので、徐々に活動していければその分知名度も上がるのではないでしょうか。私の通っていた小学校ですら150周年って書いてありましたから(笑)。
◆今回のフェスで「持続的」というワードが一つのテーマなのではないかと個人的に考えているのですが、どうやってドイツに対する関心を持ち続けさせることができるのでしょうか?
S: こういったフェスという形だと1年に一回ぐらいしかできないので、その合間合間に魅力を感じてもらうためには、やはりこちら側からSNSなどで情報発信することが必要になってくると思います。
A: ドイツフェスの次はクリスマスを考えています。定期的にそういった小さなイベントを季節に応じて開催していきたいです。あとは、私の専門分野が美術なので、秋にエリザベートについて音楽と美術の観点から扱うシンポジウムを企画しています。そのようにして次につなげていく感じですかね。
S: ドイツフェスは私たちが全部主催するのではなく、いろんなところから人をお招きしてハブの役割を果たしたいと考えています。来場者には、獨協のことはもちろんのこと「ここにもドイツがある」という気づきを得てもらえればと思います。
A: 留学ブースでも、いろいろな手段でドイツ語圏の留学について知ることができます。獨協の提携校は非常に豊富で条件も良いので、学生の皆さんにはぜひ足を運んでみて欲しいところです。関連都市の図版集を展示するコーナーも作れたらいいなと考えています。やはり、学生さんの参加が求められていますね。
◆そうですよね、でも、今回のドイツフェスは夏休み期間に開催されるので参加は任意ですよね。
S: 皆さんに来てくださいとは言えないのですが、手伝ってくれる学生さんを募集したいと考えています。ぜひ『Prost!』で紹介してください!
こちらが学生ボランティアの応募フォームです ⇒【QRコード】
【URL】https://forms.gle/x4gTTmwMtjaUazpWA
A: 参加すれば絶対ご本人のためにもなると思うので、皆さんの奮ってのご応募お待ちしております。
◆このフェスは大学構内を各自がまわる感じですよね。今思いついたのは、在学生がツアーガイドをするのを企画するのはどうでしょうか?
S: やってもらいたいなと思います。スタンプラリーはやろうという話は挙がっています。1・2年生で数が揃ってくれればぜひツアーをやりたいですね。
◆あとは、宣伝の一つとして在校生の母校(高校など)にチラシを配ったりするのはどうでしょうか?
S: どうしてもドイツ語を教えている高校とのつながりが中心になってしまうので、ぜひやってみましょう。口コミ的なものは強いですからね。他にどういったものが来場者に刺さると思いますか?リアルな意見をいただきたいです。逆インタビューになってしまいますが(笑)。
◆1・2年生の集客が大切かなと、今のお話を聞いて思いました。
A: 例えば、語学系アイドルでYouTuberのニナさんは、今ご本人がC2(ゲーテ・インスティテュートが運営するドイツ語検定試験で6段階あるヨーロッパ言語共通参照枠のうち最高レベル)を取ろうと奮戦中らしく、その経験を学生の方に知って頂くこともできるのではないかと思います。特に、1・2年生でA2を取って留学しようと考えている人にその話は刺さるのではないでしょうか。彼女も一からドイツ語を始めたので、同じ目線で話ができると思います。あとは、ドイツ語学科にはNHKラジオ講座を担当された先生方がいらっしゃるので、その体験談や面白話なんかも聞けるといいですね。あとは、卒業生の体験コーナーも1・2年生に楽しんでいただけると思います。
S: ドイツ語学科を卒業した先にはどのような進路があるのか、この場を借りてイメージしやすくなるのではないでしょうか。
◆ツアーで一つアイディアが浮かびました。時間軸に沿って、ドイツの歴史(昔)からスタートして、現代ドイツ(現在)そして留学や就職(未来)の順番にツアーを周るのはどうでしょうか?
S: 過去・現在・未来といった順で、それも「つなぐ」ことになりますよね。
A: となると、食事を取る時間が考えどころになってくると思いますが、ツアーはいい案だと思います。獨協はこれまでの日独交流に深く関わってきましたが、今後も両国を「つなげる」役目を果たしたいと考えています。そして、来場者の皆さんにもそれを感じてほしいです。
今年の8月3,4日に開催予定のドイツフェスについて今回は取材させて頂きました。先生方の話から、獨協のドイツ語学科の魅力を私自身も再認識することができました。本イベントは在校生はもちろんのこと、これから獨協大学を受験する方や父母の方、さらには地域の方々にも楽しんでいただけるものになると思います。百聞は一見にしかずですから、是非足を運んでみてください! ドイツ語学科を盛り上げられるよう私も頑張っていきたいと思います。そして、インタビューにご協力くださった青山先生、佐々木先生にこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。
(インタビュアー:2年 呉 彦祖)